「カショギ氏はただの記者ではなかった」
ドイツの有力日刊紙ディ・ヴェルト(「世界」)紙はこの程、政治学者でアラブ問題、特にジハドのネット宣伝活動に詳しいアシエム・エル・ディフラウィ氏に、先にイスタンブールで行方の分からなくなったサウジ記者カショギ氏についてインタビューしました。ディフラウィ氏は、カショギ氏とはアメリカのイラク占領時以来の知己だそうです。カショギ氏はサウジのエリート層出身 伯父・叔父は武器商人アドナン・カショギ
ディ・ヴェルト紙 あなたは、ジャマル・カショギさんに何度も会われたことがあるそうですが、カショギ氏はどのような人物でしたか。ディフラウィ とても気さくな方で微妙なテーマでもくつろいで話せる方でした。多くの人はすぐ彼のことをファーストネームのジャマルで話しかける様になりました。氏と知り合ったのは2003年か2004年のことで、きっかけは元サウジアラビア総合情報庁長官トゥルキ・ビン・ファイサル・アル・サウド(以下トゥルキ王子と略)との関連でした。カショギ氏とトゥルキ王子はこの頃からすでにサウジ王国の近代化を目論んでいました。ジャマルはそれ以前に何度もビンラディンと会っていました。彼は1990年代にビンラディンに武力闘争をやめさせようとしており、この重要な使命のためスーダンやアフガンでビンラディンと接触していたのです。ビンラディンに、サウジ王室の批判はほどほどにして国に帰るよう説得しようと試みたのです。エリート同氏はお互い知り合いであることが多いのです。カショギ氏とビンラディンは同世代な上、サウジ王国で最も裕福な一族の出身です。ビンラディンの父親はサウジ第一の建設業者でしたし、カショギ氏の伯父・叔父のアドナン・カショギ氏は有力な武器商人でした。その上カショギ氏の祖父はサウジ王アブドゥルアズィーズ・イヴン・サゥードの侍医でした。カショギ氏自身もムスリム同胞団には親近感を持っており、同胞団は比較的近代的で民主的なイスラム主義を体現するものだと考えていました。しかし今のサウジ支配層にとってムスリム同胞団は国際的な宿敵になってしまいました。
カショギ氏の過去は諜報部員
ディ・ヴェルト紙 カショギ氏の身に何が起こったとお考えでしょうか。ディフラウィ 仮にカショギ氏が殺害されたとすると、彼の記者活動だけが理由なのだろうか、という疑問が生じます。サウジ王国はアラビア系国際メディアの半分を支配しており、大概の場合、非常に効果的なメディア防御網を構築しています。記者や活動家としてのカショギ氏は非常に目障りな人物だったかもしれませんが、現実的な脅威とまではいかなかったと思います。ただカショギ氏は色々なことを知りすぎていました。彼はしばし言われているようなサウジ総合情報庁長官トゥルキ王子の報道官以上の役割を持った人物でした。トゥルキ王子の重要な補佐官の一人だったばかりでなく、自身が長年諜報活動に携わっていたのです。カショギ氏はサウジ王国の様々な微妙な問題について熟知していました。その上超エリートの一員だったわけですから、知りすぎたことがあったとしても、おかしくはありません。
カショギ氏は王族の内情を知りすぎていた
ディ・ヴェルト紙 どのような知識がカショギ氏の身に危険を及ぼすことになったのでしょうか。ディフラウィ いくつかのテーマが考えられます。汚職や急進派との結びつきに関する過去の知識とかです。それ以上に何よりも王室内の対立や悪行です。諜報機関は国家安全保障のために、支配者一族の内情も把握する必要があります。今のところは気まぐれなムハンマド皇太子が国内で実権を握っています。しかし皇太子は王族内に敵を作っています。父王のサルマーンの身に何かあった後どうなることか。ムハンマド王子は再び覇権をかけて戦わなければならないかもしれない。この関連でカショギ氏の知識が危険なものとなる可能性はあります。カショギ氏の後ろ盾だったトゥルキ王子は皇太子の座を狙っていました。驚くべきことにトゥルキ王子はカショギ氏行方不明事件について今まで沈黙を守っています。トゥルキ王子は王族の内情を知り尽くしていますから、カショギ氏も多くのことを知っていたであろうことは十分考えられます。
カショギ氏は誘拐に失敗して殺害されたのか
ディ・ヴェルト紙 支配層はカショギ氏をサウジへ連れ戻そうとしていた、という説がありますが。
ディフラウィ 誘拐に失敗したというのはありそうなことです。サウジはこれまで何度も誘拐には関与してきましたが、殺人は行っていません。サウジのメディアは現在宿敵カタールとトルコの仕業に違いない、と喧伝していますが、カショギ氏失踪は明らかに王族とその事件を握るムハンマド皇太子の問題です。
トゥルキ・ビン・ファイサル・アル・サウド ムハンマド皇太子
このインタビューは、目新しいことはあまり紹介されていないのですが、カショギ氏失踪の複雑な背景についてコンパクトによくまとめられていると思います。特に誘拐失敗説はうなづけます。アドナン・カショギ氏についてはネットで調べても色々なことがわかります。事件の焦点は今後アメリカを中心とした国際的対応に移っていくようです。ムハンマド皇太子が、トランプ大統領の娘婿にして補佐官のジャレッド・クシュナー氏と結びつきが強かったことも、事情を複雑にする一つの要因でしょうか。一方で行方のわからないカショギ氏は、逃亡先のアメリカではワシントン・ポストに寄稿していましたが、同紙は、トランプ大統領とは仲の悪い実業家ジェフ・ベゾス氏の所有になっています。