ジャマル・カショギ氏とトランプ大統領の不思議な接点

 トルコ・イスタンブールのサウジアラビア総領事館で殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏とトランプ大統領とは、お互い面識があったかどうかはわかりませんが、少なくともカショギ氏と深いつながりのあった二人の人物を通じて接点があったのは確実です。
TheNabila-1

アドナン・カショギ氏と巨大ヨット「ナビラ号」

ジャマル・カショギ氏の伯父・叔父が、ロッキード事件やイラン・コントラ事件で有名な武器商人アドナン・カショギ氏であることは、よく知られています。このアドナン・カショギ氏が建造させた世界最大級のヨット「ナビラ号」を、ブルネイ(これまたイスラム国)のスルタン経由で購入したのが、ホテル王ドナルド・トランプ氏でした。1988年11月10日放送の「レイト・ナイト・ウィズ・デヴィッド・レターマン」にトランプ氏が出演したとき、話題がこのヨットに及んでいます。


 この放送の録画はユーチューブによく出ているようで、2016年大統領選のときの民主党全国委員会(DNC) 選対本部もこの録画の存在を把握していたことが、ウィキリークスで公開されたメールからわかります。「アラブの武器商人とトランプ候補の結びつき」を示す良い例になりそうだったのでしょうか。

アル・ワリード・ビン・タラール王子とジャマル・カショギ氏

問題のヨットは、トランプ氏が資金難に陥ったときに債権者を通じて、サウジ王族で富豪のアル・ワリード・ビン・タラール王子の手に渡りました。アル・ワリード・ビン・タラール王子は進歩的なところがあり、例えばアラブ社会における女性の地位向上に積極的なことで知られていました。この王子が2015年にアメリカのブルームバーグと共同で、バーレーンに独立した放送局を設立しようとしたのですが、あっという間に潰されるということがありました。このときのTV局長が、殺されたジャマル・カショギ氏でした。
 この後、アル・ワリード・ビン・タラール王子は2015年末に、トランプ氏のイスラム教徒入国禁止発言をきっかけに、ツイッターで激しい応酬を繰り広げたのですが、2016年11月にトランプ氏が大統領選に当選すると、過去のことは水に流して祝辞を寄せました。
 同じ時にトランプ大統領のシリア政策をワシントン・ポスト紙で激しく批判して、サウジアラビア政府から出版・出演禁止を受けたのが、ジャマル・カショギ氏でした。同氏とサウジ政府の関係が急速に悪化していく最初の兆候とも言えましょう。翌年2017年にカショギ氏は亡命同然の形でアメリカに渡ります。
 一方のアル・ワリード・ビン・タラール王子は2017年に現在カショギ氏殺害との関連が噂されているムハンマド皇太子の反汚職委員会によって逮捕され、財産を奪われることとなりました。急進的なムハンマド皇太子に対抗する古い勢力を代表するものとみなされたわけです。このような皇太子の強引なやり方にはアメリカでも批判があったのですが、それをとりなそうとしていたのが、トランプ大統領の娘婿にして補佐官のジャレッド・クシュナー氏だったのです。

 このあたりの経緯を見ただけでも、サウジアラビアのエリートとアメリカの複雑な結びつきの中で、ジャマル・カショギ氏は特別な存在であったことが推測されます。同氏がジャーナリストとしての発言・活動のために殺された、とは素直に納得できない理由の一つです。

関連項目
サウジ記者不明 カショギ氏スパイ説 独ディ・ヴェルト紙インタビュー