ブラジルのトランプ ジャイル・ボルソナロ

Jair Bolsonaro pela EC 77 - Médico Militar no SUS (cropped) 
今月28日に実施されるブラジル大統領選挙決選投票で世論調査で優位に立っているジャイル・ボルソナロ氏の略歴をまとめておきます。主な出典は英語版ウィキペディアです。


    名前の発音は英語版ウィキペディアによればジャイル・ボウソナルに近いようですが、日本の主要紙はボルソナロと表記しているのでそれに従います。

    出自・家族



    ボルソナロ氏は1955年3月21日にブラジル、サンパウロで生まれました。当年63歳。イタリア系とドイツ系の血が混じっているそうです。

    結婚は3回していて、5人のお子様がいらっしゃるそうです。


    軍隊時代



    Bolsonaro 1986 (cropped)  高校最終学年時に陸軍士官学校に入学、1977年に卒業。軍隊では野砲及び落下傘部隊で勤務。陸軍勤務中、雑誌インタビューで軍隊の給与が少ないことを批判して、逮捕されたことがあるそうですが、このときブラジルの新しい民主政治に不満を持つ強硬派、右派の注目を集めました。陸軍時代の上官の評価は「野心家にして敢闘精神旺盛」だとか。


    政界進出



    Bolsonaro em março de 1990 (Acervo Globo)  1988年に陸軍大尉の階級で予備役編入。同年キリスト教民主党の候補としてリオ・デ・ジャネイロ市議選に出馬、当選。1990年に同じ党から下院議員として立候補、当選。その後6期下院議員を務めました。このあたりまでの経歴を見ると、トランプというよりはナポレオンです。

    27年に渡る議員在職中、何回か所属政党を変えていますが、左翼政策に反対する点は一貫しています。これまで議会に提出した法案171件と憲法改正案1件のうち2件が法律として成立。2014年の選挙ではリオ・デ・ジャネイロで最も得票数の多い候補でした。大統領選挙に先立つ2018年1月に社会キリスト教党から社会民主党(PSL) に鞍替え、これと同時に社会民主党は従来のリベラル路線から保守的右派路線へと転換しています。


    大統領選出馬



    2018年7月にボルソナロ氏は正式に2018年大統領選挙の社会民主党からの候補となりました。ブラジル労働改革党の支持を得ています。民衆の人気は高く、2ヶ月足らずの間に総額100万レアルの献金が集まりました。

    政策としては、新自由主義、国有企業の民営化、小さな政府を志向しています。犯罪問題に関しては強硬派、「伝統的家族観」を擁護。成長と失業率低下のため、相続税と法人税を中心とする減税を掲げています。また具体的にどの分野とは特定していませんが、緊縮財政、政府の支出減を標榜しています。さらに大幅規制緩和で国家公務員の数を減らすそうです。

    これらの経済政策を推進する財務大臣には、ボルソナロ氏の経済顧問で新自由主義経済学者パウロ・ゲデス氏が起用される予定です。

    9月6日に遊説先で民衆に囲まれていたところ、刃物で腹部を刺され重傷を負い、その後の選挙戦には参加できませんでした。にもかかわらず、10月7日に行われた選挙では他の候補を大きく引き離す46%の票を獲得。規定の50%には届かなかったため、10月28日に決選投票が行われます。10月10日発表の調査会社ダタフォーリャの世論調査では、ボルソナロ氏が49%と、対立候補の労働者党ハダット氏の36%に13ポイントの差をつけています。


    支持層、政見・政策



    政治家としてのボルソナロ氏は、国家主義者、ポピュリスト、極右と言われていますが、支持者の目には伝統的な保守的右派と映っているようです。支持が多い層は24歳までの若年層、労働中流階級から上流階級、保守層、大卒、一部の中道派とキリスト教右派です。白人男性の支持が多く、女性の支持は最近少し増えましたが、依然男性と比べると低いままです。

    左翼の政策には強硬に反対の立場をとっています。特に同性婚、中絶、人種別優先割当等のアファーマティブ・アクション、移民、麻薬合法化、農地改革、国の政教分離等にことごとく反対しています。またブラジルの軍事独裁政権を擁護する発言をして物議を醸したこともあります。

    犯罪問題等に関しては、拷問は合法であるとみなし、憲法で禁じられている死刑や終身刑の復活を主張しています。

    経済関連では前述の通り、国有企業の民営化と自由市場経済政策をとりますが、議員時代の政策は必ずしも自由主義的なものではなかったそうです。


    終わりに



    アメリカやヨーロッパの一部で顕著なのですが、21世紀のグローバリズムに取り残された不安を抱える中流階級の心を掴んで台頭してくるタイプの政治家です。過激な発言や個々の政策はさておき、民衆の声を上手く取り上げていくところは政治家として重要な資質であり、評価されるべきではないでしょうか。