アイルランド 17歳少女レイプ事件無罪判決 「被害者がレースの下着を身につけていた」 アイルランド女性が猛抗議

 アイルランド共和国南部の都市コークの地方裁判所で11月5日に下された17歳少女レイプ事件の無罪判決について、女性弁護人が最終弁論で被害者の少女が事件当時身につけていた下着に言及していたことが問題となり、アイルランド共和国の国会でも取り上げられ、アイルランドの女性たちが抗議の声をあげています。抗議運動で下着を見せる女性が多かったことから注目を集めていますが、下着を理由に無罪を求めたことの他にも、レイプ事件の審理について考えさせられることがありますから、少し詳しく取り上げてみたいと思います。



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    裁判の概要



     この裁判に関してはコークの地元紙「アイリッシュ・イグザミナー」紙が詳しく取り上げていました。その記事を元に、まず裁判の概要を紹介してみます。
     事件は17歳の少女が強姦されたとして27歳の男性を告訴したもので、判決は11月5日に言い渡されています。
     この裁判ではセックスが合意の上であったかどうかが争点となりました。
     まず問題となっている性的行為の直後に少女が被告人に「あなた、私をレイプしたのよ」と言ったのに対して「いや、俺たちはセックスしただけだ」と答えたことが証拠として提示されました。
     被告人が弁護人に対して、性行為は合意の上であったと述べた後、検察の反対尋問が始まりました。
     事件のあった夜について質問されて、被告人はキスをして「お互いに惹かれ合った」と答えました。
     検事の「誰もキスしているところを見た人はいない」という発言に対して、被告人は一人キスしているところを見たという人物の名前を挙げましたが、この人物は法廷では証言しませんでした。
     次に検事は性的接触について説明するよう求めました。
     被告人は、小道を登っていって泥地で横になった、完全に勃起しなかったので膣内に男性器を挿入したとは思わない、その可能性もあるが、そうは思わないと答えました。
     検事の「被害者の首に手をあてているのを見たものがいるが」との問には、そのようなことはない、それは見間違いであると回答。
     レイプされたところまで30メートルほど引きずっていかれた、という少女の証言に関しては、「誰も引きずったりはしていません。」
     また少女が「湿った泥地で」服が汚れはしないかと少々気にかけていたようだとも語りました。
     事件を目撃した人物が2人に何かあったのですかと声をかけたのに対して、いやみで「何してると思ってるんだ。ほっといてくれ」と答えたそうです。
    その後、彼女(被害者少女)は少しおかしくなって、酔が急に冷めたようでした。彼女がやめてといったのでやめました。セックスするところだったのですが、やめてと言ったのでやめました。
     この後行われた最終弁論で弁護人のエリザベス・オコンネル氏は、陪審員に対して告訴人の少女が事件当夜着用していた下着に注意を喚起して次のように述べました。これが後々、大問題になりました。
    彼女(被害者の少女)が被告人に惹かれていた、誰でもいいから出会いを求め、関係を持つことにオープンであったという可能性が、提出された証拠によって完全に排除されたでしょうか。事件当時の彼女の服装をよく思い出して下さい。表がレース素材のTバックをはいていたのです。
    これに対して検察は最終弁論で陪審員に対して次のように訴えています。「皆さんは、二人の間で性交が行われたか、二人の間に合意があったかを判断して下さい。お聞きの通り、被害者少女は合意していないと証言し、被告人は少女は合意したと証言しました。皆さんが考慮する主要な論点は、被害者少女が性交に合意したかどうかです。彼女が合意したか否か、この二者択一です。もし彼女が合意しておらず、被告人もそのことを知っていたと皆さんが思われるのでしたら、有罪になります。被害者少女は合意しなかったと明言しています。彼女はこれまで性体験はないと言っています。被告人はたくさんキスをしたと言っていますが、公判でキスをしているの目撃したという証人は一人もいませんでした。」
     この後、男性8名女性4名からなる陪審員は1時間半の協議の後、全員一致で無罪の評決を下したとのことです。様々な手続きの時間を考慮すると、実質的な協議はほとんど行われなかったと思われます。
     さてこの「アイリッシュ・イグザミナー」の記事を読んだ限りでは、少女のはいていた下着が決定的要因となって評決が下されたようには思えません。
     検察は少女の身に何が起こったのかを明確に示す物理的証拠を示していないようです。レイプ事件の証拠の保全は、心理的にも物理的にも困難を伴います。地方の捜査機関では、資材も人員も十分ではないかもしれませんが、最初の捜査が行き届いていなかった可能性があります。このため、被告人の「男性器の挿入に及ばなかった」という証言も、証拠や反対尋問で効果的に反駁することに成功していません。
     この弁護人の上手いところは、告訴人の少女が被告人に惹かれていた、あるいは性的関係を持つことにオープンであった可能性があるということを示すことで、陪審員に告訴人の「合意を与えなかった」という証言に疑いを持たせるような印象を与えたことだと思います。
     男性の陪審員が女性の陪審員よりも4人多いという構成も、この種の裁判としては問題だったと思います。プロの判事が判決を下すのとは違って、陪審裁判は検事・弁護人の話術や陪審の構成に影響されることが多く、ときどき驚くような評決になることがあるのです。
     こういったことから、この裁判は服装と性交渉への同意の問題以上に、アイルランドにおけるレイプ裁判の様々な手続き上の問題点を示すものだと思われます。そのことはアイルランド下院における議論でも取り上げられています。


    アイルランド国会下院で問題に



     この裁判のことは間もなくアイルランド国会下院の党首討論で取り上げられました。
     「利益よりも人民を優先する連帯」党のルース・カッピンガー議員はレースの下着を手にして質問に立ち、「アイルランドの裁判所で頻繁に被害者への責任転嫁が行われるていることに、アイルランド女性は辟易している」と指摘した上で、レオ・バラッカー首相に
    裁判でレイプ神話が頻繁に利用されているのに対して、なぜ対策が講じられていないのか、この影響で被害者が表に出てくることを躊躇するかもしれないことを政府はどれほど憂慮しているのか
    と問いただしました。さらに同氏は17歳の少女が下着の選択のことで非難を受けていると指摘しました。
     これに対してバラッカー首相は、個々の裁判に関しては介入することはできないと前置きした上で、
    レイプしてほしいと頼む人間はいない、被害者に責任は一切ない
    と下院の議事録に明記されることを求め、このような事件の審議に関して手続き慣行の面で改善できる点がないか検討している、と回答しました。また性的暴行やレイプの被害者に責任が転嫁されるようなことはあってはならないし、そういったことをほのめかすような弁護の仕方は非難されるべきであるとの見解を示しました。さらに
    服装、行き先、一緒に行った相手、薬やアルコールを飲んでいたかどうか、そういったことは一切関係ない
    とも語りました。
     またカッピンガー議員は、「利益よりも人民を優先する連帯」党が提出している、学校における性教育と判事・陪審員に対する指導の義務化に関する法案に同意するよう求めました。
     これに対してバラッカー首相は、すでに学校やワークショップにおいて合意の問題については多大の努力がなされている、と回答しました。
    国会でレースの下着を手に質問に立つカッピンガー議員
    (写真は国会でレースの下着を手に質問に立つカッピンガー議員)

    この質疑から明らかになることは、アイルランドの裁判所ではレイプの審理に手続きなどの面で不備のある可能性があること、このため被害者・告訴人に責任を転嫁するような弁護が頻繁に行われているということです。政府もこのことは関知していて改善にそれなりに努力しているようですが、なかなか浸透していないという印象を受けます。


    SNSでアイルランド女性が猛抗議



     この国会でのやり取りとは別に、判決の出た2日後にダブリンの強姦救援センターの最高責任者がまず抗議の声をあげ、判決に疑いを挟みはしないものの、被害者・告訴人の側に責任があるかのような示唆が行われることを許容している法体系の改正を求めました。
      さらに今年3月、レイプの罪に問われた2人のラグビー選手が北アイルランドで無罪判決を受けたことをきっかけに始められた抗議グループ「I Believe Her(私は彼女の言うことを信ずる)」がフォロワーに対してハッシュタグ「#ThisIsNotConsent これは合意ではない」で下着の写真を掲載して、被害者の17歳少女を支援するよう求めました。
    レイプで無罪になった男の弁護人は、陪審員に対して17歳少女の告訴人が身につけていた下着のことを考慮するよう示唆しました。このような全く受け容れられないコメントに抗議し、私達はフォロワーの皆さんに#ThisIsNotConsentをつけてTバック/ショーツの写真を掲載し、被害者への支援の意思を表すようお願いします。
    この呼びかけに多くの人々が共感の声を寄せました。幾つかの例を挙げたいと思います。
    レースのショーツとレースでないTバック。どちらがレープされないか、誰か教えて下さい。
    私のショーツが可愛いからといって、イエスと言っているわけではないのよ。
     上述の下院で質問に立ったカッピンガー議員も参加して、

    この下着を下院で見せたとき、カメラがカットされるのが聞こえました。法廷では被害者の下着が証拠として回覧されることが規則で許されているのですから、下院でも提示されるべきです。明日の抗議集会に来て下さい。ダブリンでは、スパイアで午後1時開始です。
    とツイートして11月14日水曜日に行われた抗議集会への参加を呼びかけました。


    アイルランド各地でデモにまで発展



     この日はアイルランド各地で昼休み時に、社会主義フェミニストグループ「ローザ」の組織した「裁判所における被害者非難」撤廃を求める抗議活動に多くの人々が参加しました。
     公判の行われたコークでは、200人ほどが集まり裁判所にデモ行進して、階段に下着をおきました。

    「何を来て、どこへ行こうとイエスはイエス、ノーはノー。」というスローガンを唱えて、本日の抗議活動に集まった人たちは被害者非難をなくすよう求めました。
    #ThisIsNotConsent(これは同意ではない)抗議集会に参加した人たちが下着をコーク市裁判所前の階段に置いています。 
    ダブリンでもスパイア、裁判所でデモが行われ、多くの人がプラカードや下着を持って集まりました。



    ダブリンのスパイの外にTバックが吊るされています。これはレープ事件の審理の仕方の改革を求める抗議活動の一環です。
    同様の抗議集会は11月16日金曜日にも行われたそうです。
     このように大規模な抗議が行われた背景には、北アイルランドの統計ですが性的暴行の被害届が過去18年間で3倍に増えた一方、裁判を経て有罪判決に至った事件はその2%に満たないという、司法の対応の遅れもあるようです。
     ハッシュタグ#ThisIsNotConsentを見ていると、2002年にやはり17歳の少女がレイプ裁判で証言した2週間後に自殺したケースも紹介されていました。


    被害者の心理的負担を最低限に抑えつつ裁判の公正を確保することは非常に難しいことであることを改めて知らされる事件です。こういった運動が世界に広がって、人々の意識が少しづつでも変わっていくものと思いたいです。


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