【緊迫ウクライナ情勢】ウクライナ海軍艦艇にロシアが攻撃 6名負傷3隻拿捕


ロシアが一方的に編入したウクライナ南部クリミア半島周辺の黒海海域で25日、オデッサを出港してアゾフ海に面するマリウポリに向かうウクライナ海軍艦艇3隻が、ロシア国境軍の攻撃を受けた後、拿捕されました。




ウクライナ政府は、船団の行動はロシアに事前に通知してあったと主張しています。一方ロシア政府は、ウクライナ船団が領海を侵犯したとしており、両者とも相手方に非があると譲らないでいます。

ウクライナ政府は26日に議会を召集し、戒厳令の宣言を検討するそうです。




    ウクライナ船団の通行は事前通知済み



    拿捕されたのはウクライナ海軍の河川・沿岸警備艇「ベルジャーンシク」(全長23メートル、排水量54トン)、同「ニーコポリ」(同左)及びタグボート「ヤニ・カプ」の3隻です。
    写真は上から「ベルジャーンシク」、「ニーコポリ」、「ヤニ・カプ」
    Новозбудовані для українських ВМС малі броньовані артилерійські катери в ході випробувань здійснили спільне плавання (27359525951)
    Navy in Kozac'ka Volia, 2018, 05 (cropped)

    ウクライナ海軍の発表では、マリウポリに向かうこの船団の行動は国際規則に則って事前に通知済みとのことです。しかしながらアゾフ海への唯一の通行路であるケルチ海峡に差し掛かったところで、ロシア国境軍に行く手を阻まれたそうです。


    ロシア沿岸警備艦隊が一方的に攻撃



    ソボル級警備艇(全長30メートル、排水量57トン)1隻、国境警備巡視船「ドン」、マングスト級警備艇(全長19メートル、排水量27トン)1隻及び対潜コルベット「スズダレツ」(全長71メートル、排水量1065トン)からなるロシア艦隊はウクライナ船団に対して攻撃的な行動を取り、ロシア巡視船「ドン」がウクライナのタグボートに衝突してきたそうです。
    写真は上からソボル級警備艇、巡視船「ドン」、マングスト級警備艇、対潜コルベット「スズダレツ」
    Береговая охрана 2 катер 635
    International Maritime Defence Show 2011 (375-37)
    Suzdalets2009Istanbul

    下の画像は、ウクライナの側から捉えたロシア船の画像です。


    この結果ウクライナのタグボートの側で、主エンジン、船舶外装部と滑落防止ロープ部が損壊、救助ボートを損失するなどの被害が出ました。

    またロシア巡視船「ドン」の側でも中央部喫水線上に穴が開くほか、2メートルの凹みができるなど重大な被害が生じています。

    下の写真はロシア巡視船「ドン」の被害状況です。


    ウクライナ船団はこの抵抗にもかかわらず、ケルチ海峡に向けて航行を続けましたが、海峡入り口を空のタンカーに塞がれて、アゾフ海へ入ることはできませんでした。


    またロシア国境軍はウクライナ船団に対して、ジェット機2機と攻撃ヘリコプター2機を緊急発進させました。

    さらにロシア艦隊は海域から退去しようとしていたウクライナ船団に発砲。この攻撃でウクライナ海軍の河川・沿岸警備艇「ベルジャーンシク」が被弾、1名が負傷し航行不能に陥りました。ウクライナ海軍の発表では船団全体で合計6名が負傷したとのことです。

    ウクライナ船団にはその後、ロシアの特殊部隊からなる臨検隊が乗船し、拿捕したそうです。

    ロシア側の発表では、ウクライナ船団を拿捕するため一隻の艦艇が実力行使に訴え、3名が負傷したとしています。


    国際社会の反応



    この事件に関して欧州連合(EU)はケルチ海峡における通行の自由の回復を要請、慎重な対応を求めました。

    北大西洋条約機構(NATO)は「ウクライナの主権及び領海内における通行権を含む領土の保全を全面的に支持する」と発表しました。

    ウクライナは国連にこの問題を協議するため安全保障理事会の臨時会合を開催するよう要請し、国際社会に向けてロシアに対抗措置をとるよう訴えています。

    ロシアもまた安全保障理事会の臨時会合の開催を要請しており、米国連大使ヘイリー氏は、アメリカ東部時間26日午前11時から緊急会合を行うと発表しました。


    事件の背景




    ウクライナ船団が入ろうとしたアゾフ海は、ロシアが一方的に編入したクリミア半島の東に位置し、北岸は親ロシア反政府組織が一部を占領するウクライナ領土南部に接しています。

    北岸のウクライナ領の港町ベルジャーンシクとマリウポリは穀物・鉄鋼の積出港として、さらに石炭の輸入港として経済的に重要な役割を担っています。

    2003年にウクライナとロシアの間で結ばれた条約により、両国の船舶はアゾフ海を自由に航行できることが定められています。

    しかしながらロシアは、今年の3月にウクライナがクリミア半島の漁船を拿捕したことをきっかけに、ウクライナの港を出入りする船舶に対して臨検を実施するようになっていました。これに対して欧州連合(EU) は、臨検をやめなければ一定の措置をとると警告していました。

    ロシアはこれに対して、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ唯一の道路であるケルチ海峡に掛かるクリミア大橋を、ウクライナ人過激派の攻撃から守るために必要な措置であると説明していました。

    今回衝突のあったアゾフ海北岸に位置するウクライナ東部、ロシア国境沿いのドンバス地域(ドネツク州とルガンスク州)では2014年2月、ロシア寄りの大統領が政権を追われたのを機に、親ロシア派グループが独立を宣言してウクライナ政府軍との間に内戦が勃発、1万人以上が死亡したと言われています。

    ウクライナと西側諸国は、ロシア政府が同地域の親ロシア勢力に武器と兵員を送っていると非難していますが、ロシアはこれを否認し、義勇兵が自主的に参加しているだけであると説明しています。

    参考リンク